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 ↑ロッキー田中のエッセイ「ときめきの富士を求めて」はこちらから
ご覧いただけます。

平成15年度 文部科学大臣賞 受賞作品
天空に舞う

春一番が吹いた。

 

3月14日 午前7時 忍野村忍草より

    春一番の風が疾った。

       離れ、固まり、舞いながら

            私の心に広がって、

               天空に飛んで行った。

    あれは鳳凰だ。

       大きく大きく翼を広げ

            空全面に羽ばたいた。

夢への入口

 

 

12月5日 西川林道

 ずっと天気を見ていた。
  風が有る。雨は夜中に上がりそうだ。
  久し振りに西川林道で夜明けを迎えてみよう。

  天気の変わり目に立つ場所は、いつも直感で決めている。12月20日が林道閉鎖の標準日だが、富士吉田市の背後の西川林道は降雪に左右されて早まることが多い。案の定、12月9日に閉鎖になると看板が出ていた。

 富士山の北西に当たる西川林道、三つ峠、富士吉田市一帯では、裾野までの富士山が左右対称で日本一美しい地域だと言われる。高い場所から見れば河口湖を見下ろし、空がとても大きい絶景の場所だ。

  夜明け前、湖を綿のような雲がすっぽり覆っていた。岸辺に人家と河口湖大橋があるから、雲の下から灯りを透かすように見えていた。幻想的で不思議な光景だった。

  稜線に光が来るのを待っていたら、湖を覆っていた雲が動き始め、大橋の灯りが強くなった。早起きの車が橋を通っている。だが大橋の光は対岸まで見えず、半分を雲に隠されていた。

  去年、「千と千尋の神隠し」を見た。あの中に湖か川の中に消えて行く心の電車があった。何と、同じ情景じゃないか!。その内に空に色が付き始めた。オーロラみたいで吸い込まれた。たまらん。私も染まる。

  ときめきの富士を撮ることだけが仕事、天職だと受け止めているからやるべきことは、より美しい感動の一瞬に出会える努力をすることだけ。
世に出す99作の中に入るかどうかの基準は、自らの美意識と見て下さる人の心への響き、撮るのではなく大気と調和して受け止めてくるだけ。

  勿論、トリミングなんてしない。望遠レンズなんて使わない。幅広い構図=視界の全てが完全に調和して、色に満ちる瞬間を求めるのである。
だから1枚の後には世に出ない1,000枚があるのかも知れない。

  「夢への入口」。半年間寝かしておいた。時の洗練を受け、改めて出して見た作品に「ときめき」が失われていないことを確認した。

「お待ちどおさま。夢の入口の出番だよ」。
  ときめきの富士、初めて発表する第46作目である。

  空の色が広がってきた。

  もうすぐ . . . . . . . 夜明け。

水鏡・子抱き富士

 

 

10月16日 午前6時 精進湖

 今から10年前、秋は正真正銘の秋だった。
  今の様に、いつ夏が終わって秋が来たのか分らないような季節の変化が乏しい事はなかった。10月も半ばを過ぎれば朝はグンと冷えたのである。

  湖が鏡になった時に上空では秋の風が吹いていた。ざわめいている。風に呼ばれて雲が動いている。そして夜明の瞬間、同時には滅多に見ることの出来ない大室山と向こう岸の森が今朝は出現した。

  森は真っ黒では意味がない。微かでも朝の冷気の中で木々が動いているのを濃淡で描写しなければ作品として訴える力が欠ける。そして冠雪が有ることが不可欠となる。雪は富士の顔だ。

  この大室山を抱いている姿を「子抱き富士」といって昔から大事にされて来た。子や孫の成長を願う女性の気持にも似て、あくまでも伸びやかで優しい富士の姿だ。

  湖は鏡になって空を映した。秋から冬へと流れて行く移ろいの季節の中の、心に染みる美の情景である。展覧会にこの写真を出すと必ずと言って良いほど

「やっと探していた富士山を見つけました。」という異なる女性が現れる。
子を思うその気持故であろう。その方にとっての「ときめきの富士」になれたのなら、こんな嬉しい事はない。

  この日、午前中一杯まで上空の雲が残っていた。


  余談だが「ときめきの富士」は昨年遂に、数枚が版画になった。ラッセンやヤマガタを出している版元からオーダーがあり、この写真が選ばれた。
私は知らなかったが、写真家では初めてだという。出来上がった版画を絵の額に入れてみたら、写真とは違った味わいで語りかけて来た。

  いつしか「ときめきの富士」が一人歩きし始めているのを知った。

藍色絵染

 

  9月26日午前5時半 丸山林道

 数年に一度の天地創造を思わせるような

      空を真紅に染めた朝焼けが終わったあと

          まだ空に漂う雲も山肌も第2の彩りの時に至る


  今朝、藍染の色の富士が目の前に在った

      雲は旭光を受け黄金の帯となって輝いた

          出現が奇跡のような紺青と金の饗宴である


  藍の色は私達日本人が一番好きな色

      金の色は究極の美、深い藍と共に在れば

          共に際立ち互いを引き立てる至妙幽玄の美


     また一つ、見たことのない世界を見ることが出来た

情念の空

 

  9月26日午前5時40分 丸山林道

  夜半から空全面に広がっていた雲は激情の予感を裏切らなかった。数年に1度の絶好の気圧配置は今まで見たこともない色変化を伴って次々とドラマを見せてくれた。

  そのクライマックスが来たのは稜線が黄金に輝いた時である。

  全ての光を余すところなく雲が受けて燃え盛った。光と風と色の饗宴は数分に及び、立っている私まで朱に染まった。グオーン、グオーンと空鳴りが聞こえる。息遣いをしている富士がこの空を連れてきた。

  そのとき、空に竜が飛んだ。

  この日この場所にいて、このシーンに出会った幸せ、無限のエネルギーを己の心と体に一体化してまた挑戦する。イメージを高め、富士山の呼ぶ声を聞き、その心象景がいつどこで出てくれるかを知る。

  自然の広大無辺の営みに対して、人間の及ぼす力なんて無に等しい。空振りの連続だ。でも積み重ねて、思いを高めて、また会いに行く。

みのり

天然悠久

 

10月22日 午前7時 信州旧塩尻峠

ここは信州塩尻の
      峠の道の麦の穂が
     朝日を受けて輝いた。

      輝く時は限られて、
        夜明直後の数分間。
         遙かな富士はシルエット。
          もうすぐ山に冬が来る。
           その少し前霜の朝、

        <みのり>の写真が出来ました。

      無限宇宙の幾億の
      中に生まれた太陽系
     銀河の中の奇跡星、
      地球に生きて恵み有り

       自然の摂理に感謝して
         「ときめきの富士」ここにあり。